Bar Hotel California.

You can check out anytime you like,

匂い。

まだ僕が19歳の頃、浪人中の話だ。

何を隠そう、当時の僕はかなりのボクシングマニアだった。

 

僕の初めてのアルバイトは、友人・吉田くんの誘いで始めたWOWOWのボクシング解説でお馴染みのジョー小泉氏の会社での仕事だった。仕事内容は海外ボクシング映像のダビング&発送。当時はまだDVDもyoutubeもない時代だったから海外のボクサーの試合などなかなか観られなかったので、仕事中に小さなテレビモニターでそのレアな映像を観て僕は興奮した。スピード、迫力、そしてボクサーの身体の美しさ。80年代前半の当時、ボクシングの世界は中量級の黄金時代。ハグラー、ハーンズ、レナード、デュランらの試合を見るにつれ、どんどんボクシングの魅力にハマっていったのを覚えている。

 

小泉さんは当時から業界の有名人だったので国内の試合の”招待チケット”をよく貰ってきていた。それをバイトの僕らは頂いていた。恐らく十数回は観させていただいただろうか。会場は全て水道橋の後楽園ホール。あの薄暗い照明、擦れた匂い、プロレスのような華やかさはなく、でも鍛えぬかれた身体で真剣勝負の殴り合い、リングサイドは強面のボクシング業界の方々、そしてその筋の方々。。。。19歳の埼玉の少年にとっては強烈な大人の世界、そして男の世界だった。

 

その"世界感"を演出して要素のひとつに、観ていた会場があのボクシングの殿堂・後楽園ホールだったからというのは確実にある。なんなんだろうなあ、あの会場独特の空気感は。その後、僕は仕事の関係で日本中のホールをいくつも巡ったが、後楽園ホールほどの趣のあるホールは本当に数少ないと思っている。

 

浪人時代が終えると共に僕はそのバイトを辞めてしまったので、それから後楽園ホールに行くことはあまりなくなってしまったが、ボクシング熱は冷めやらず、そして縁もあって、その後も辰吉対薬師寺の世界統一戦を名古屋レインボーホールに観に行ったり、鬼塚の世界戦を日本武道館に観に行ったり、畑山の世界戦を有明コロシアムに観に行ったりしていた。あ、忘れていたがマイク・タイソンの試合も東京ドームに観に行ったなあ。

 

でもやはりボクシングを観るならやはり後楽園ホールで観るのが一番好きだ。

 

会場が醸し出すあの"独特の雰囲気"は観る者にとっても試合する者にとってもとても重要な演出要素になっていると思う。"匂い”と言い換えてもいい。そうだな、”匂い”なんだな、あれは。あそこで観た赤井英和渡辺二郎の試合は少々セピア色に変色しながらも今もなおくっきりと、あの当時の"匂い”と一緒に鮮明に残っている。

 

実は来月、友人から嬉しいお誘いを受けて久々に後楽園ホールにボクシングの試合を観に行くことになった。何年ぶりになるだろう。今からとても楽しみだ。恐らく、当時とそれほど変わっていないんだろうなあ。

あの"匂い"も変わっていないんだろうなあ。